水道水源の全てを地下水で賄う人口約74万人の熊本市。これは人口50万人以上の都市としては日本唯一、世界でも稀少な都市となっています。
また、阿蘇外輪山の西側から連なる面積約1,041平方キロメートルの熊本地域の大地には、熊本市を含む11市町村があり、約100万人の人々が暮らしています。この熊本地域においても水道水源のほぼ全てを地下水で賄っています。
そのため、熊本地域で地下水を守り伝えていくことが不可欠であり、市町村の枠を越えて地下水保全の取り組みを行っています。この熊本地域で行う地下水保全の取り組みが世界で高く評価され「2013国連“生命の水”最優秀賞」を受賞しました。
熊本地域の水循環は独特です。年間降水量約2,000ミリメートルの熊本地域に降る雨は約20億4千万立方メートル。うち3分の1が蒸発し、3分の1が川となり、残り3分の1の約6億立方メートルが地下水となります。渇水時でも熊本市に断水の経験がないのは、この水循環に秘密があります。
阿蘇火山は、約27万年前~約9万年前にかけて4度にわたる大火砕流噴火を起こしました。その火砕流が厚く降り積もり、すきまに富んだ水を育みやすい土台ができあがりました。
そして約420年前、肥後に入国した加藤清正は白川の中流域などに多くの堰と用水路を築き水田を開きました。特に白川中流域(大津町や菊陽町など)の水田は通常の5倍~10倍も水が浸透します。水が浸透しやすい性質の土地に水田を開いていったので、大量の水が地下に供給され、ますます地下水が豊富になりました。
まさに壮大な阿蘇の「自然のシステム」と、加藤清正はじめ先人の努力による「人の営みのシステム」が絶妙に組み合わさり、熊本の地下水システムが成立しています。現在の熊本地域の水循環系は約420年前に完成したことになります。
阿蘇外輪から熊本市まで、約20年の歳月をかけて地下水は磨かれます。その間、ミネラル分や炭酸分がバランスよく溶け込み、おいしく体にやさしい天然水になるのです。
この地下水システムは天然のミネラルウォーター製造機であり、このシステムを適切に維持すれば、わたしたちはこれからも素晴らしい地下水の恩恵にあずかることができるのです。
創設時の立田山送水管布設 健軍水源地 5号井
蛇口をひねればミネラルウォーター
熊本市は市民約74万人の水道水源をすべて地下水でまかなっています。
市内113本の井戸から平均一日約22万立方メートルを市内一円に配水しています。(H27.3.31現在)熊本市には他都市のようなダムや浄水場はありません。井戸から汲み上げた清冽な地下水に、法律で定められた最低量の塩素を加える程度の処理をした水道水を、配水池や調整池に集め、そこから各家庭に配水しています。
熊本市の水道は、第三代辛島市長が提案し、紆余曲折を経て、第七代高橋市長の在任中の大正13年(1924年)11月27日に、八景水谷を水源地・立田山を配水池として給水を開始しました。90年余の歴史をもつ水道発祥の地「八景水谷水源地」は日本近代水道百選の一つです。また、同地の水道記念館(創設当時のポンプ室)は、国指定有形文化財として往時の姿をとどめています。
熊本市最大の水源地は健軍水源地です。11本の井戸のうち7本が自噴しており、その中でも5号井は一日の取水能力が15,000立方メートルもあり、この井戸だけで市民6万人以上をまかなえる計算になります。
熊本市の水道水には、健康を保つのに不可欠なカルシウムやカリウムなどのミネラル成分がバランス良く含まれており、健康やおいしさに貢献しています。さらに、血管の柔軟性を保つ効果があるとされるケイ素も豊富に含んでいます。つまり、水道水でありながら、実は天然のミネラルウォーターそのものなのです。
左図に、熊本市の水道水と市販ボトル水に含まれるミネラル成分の一部を示しました。このグラフから、熊本市の水道水が優秀なミネラルウォーターであることが分かります。
外国産のミネラルウォーターの中には、ミネラル分が極度に高いものがあります。でも、これらはあまりおいしい水とは言えず、目的に応じて飲用する嗜好品と言えましょう。その一方で、ミネラル成分が熊本市の水道水の10分の1ぐらいしか含まれていない市販ボトル水もあります。
熊本市の水道水は、おいしくて、身体にも優しい天然のミネラルウォーターなのです。
市内一円に点在する井戸や配水池・調整池等は、日本列島の長さほどある水道管でつながっています。(3,366キロメートル H27.3.31現在)これらは、水前寺にある上下水道局水運用センターで24時間監視・制御されています。
また、上下水道局では、安全な水道水を各家庭に届けるため、井戸から蛇口にいたるまで91項目(H27.4.1現在)の厳しい水質検査を行っています。