【記者】自治基本条例についてお伺いします。市が示した素案を市民の意見を受けて、一部修正した形となりましたが、このことについて市長の受け止めをお願いします。
【市長】先の記者会見でもいろいろと説明をさせていただきましたが、パブリックコメントにおいて、素案に対して大変多くのご意見をいただきました。その後の市議会でのご審議、それから当事者であります在住外国人や、地域活動をされている地域の皆様方からもご意見を伺いながら、この改正内容について慎重に検討してまいりました。その結果、外国人参政権を与えるようなことに繋がるのではないかというようないろいろな誤解に基づいたご意見も多く含まれておりましたが、市民の皆さんの誤解、それから不安を招くことにならないようにするためにも、この素案を変更し、(第2条第2号については)現行の条文のままとさせていただきました。
市議会からも、市民の定義というものは変わらないわけであるから、あえてそこは特筆する必要はないのではないかというご意見もいただいておりましたし、また、外国人の皆さん方との間に、改正によって分断が生まれるということがあってはならないということは、これまでも会見等々でも申し上げてきたところですが、今後、在住外国人の方々や地域住民の皆さんとともに、地域コミュニティの中で、それぞれ違う国籍があっても、互いを尊重しながらそこで交流をし、生活をしていくということが非常に重要だと我々は考えておりますので、今後はそういった実質的な交流の事業であるとか、それから在住外国人の皆さんからのご意見を聴くような場など、企画をしながら進めていきたいと考えており、今回こういったことについても、我々の考え方をお示しをするということで、議会においてもご審議をいただくことになりますので、また改めて議会でご審議をいただいた上で、これが可決された後もしっかりと、そうした取組を進めていきたいと考えています。
【記者】犯罪被害者支援条例についてお伺いします。犯罪被害者等基本法が出てから、全国において相次いで条例制定が行われており、熊本市は少し出遅れた印象があるのですが、この条例の位置づけを教えてください。
【市長】犯罪被害者の方々の多くは、犯罪による直接的な被害をお受けになるという事と同時に、周囲のいろいろな臆測による誹謗中傷であったり、心身の不調、それからやはり経済的な損失など、二次被害という形で非常に苦しんでおられる方が多いということがございます。やはり熊本市としても、市民の皆さんに身近な基礎自治体として、そうした支援の実施が求められているということでございまして、今回、この条例により支援をする基本理念を定めて、施策を総合的に推進するということで、犯罪被害者の皆さん方が受けた被害の軽減、それから回復を図っていって、市民の皆さんが安心して暮らせるようにしたい、そういう思いを込めているところでございます。
実は昨年になりますが、実際に犯罪被害者のご家族をお招きして、幹部職員みんなでお話を聴いております。こうした中で、先ほど申し上げました二次被害も含めて、それから経済的に非常に厳しい状況もお聴きしまして、これは熊本市としても、きちんと条例を制定して、こうした支援を少しでもできるように繋げていきたいという事で、これまで県の弁護士会等からも、犯罪被害者等の支援条例制定の必要性について非常に多くのご意見やご要望もいただいたところですが、実際に関係者の皆さんからもご意見やお話をお聴きしてこれを進めていくということで、外部の委員会等を設置し、これまで検討を進めてまいりました。ようやくこうして、パブリックコメントを経て、条例案として提案できる運びとなりましたので、これから犯罪被害者の皆さん方の立場に寄り添った、しっかりとした施策を行っていきたいと考えています。
【記者】宿泊税の検討委員会設置についてお伺いします。宿泊税に関して、市長が課題と考えていらっしゃることと、今後どのようなスピード感で進めていかれるのかを教えてください。
【市長】宿泊税の導入については、熊本市でもいろんな検討をこれまで内部的に行ってきました。他の自治体でも既にいろいろな検討がされ、導入されていますが、やはり観光振興施策を充実させていく、そして強化をするためにも、新たな財源を確保することは重要だと認識しております。特に財源の安定性の観点からも、非常に有効な財源であると考えておりますので、他の自治体のいろいろな事例や取組も参考にさせていただいて、私自身も昨年の市長選挙のマニフェストの中にも、宿泊税導入についての検討を行うという事を盛り込んでおりました。
一方で、これは賦課徴収を伴う税制度ですので、導入の検討に当たりましては、宿泊事業者などの関係業界の皆さんのご意見等をしっかり聴取し、丁寧に議論していく必要があると考えまして、この度の検討委員会の設置に至りました。今後、宿泊事業者や関係業界の皆さんも含めて、いろいろな先行導入自治体での状況も踏まえながらご審議をいただきたいと考えておりますので、検討委員会でご審議いただいた結果を踏まえて、今後導入の是非や時期等々についても判断したいと思います。ですから、この検討委員会は、あくまでも宿泊税の導入を前提とする検討委員会であって、様々なご意見を出していただき、その上で導入の可能性を検討していくという、そういった位置づけで考えております。
宿泊税については、各自治体で様々なアプローチがなされていますが、昨今オーバーツーリズムなど、いろいろな観光や宿泊をめぐる状況が各地である中、しっかりとした都市の環境整備をしていくために、宿泊をしていただく方にある程度のご負担をいただくことにはなりますが、そういったものが財源となって地域の環境を整えていく、そして旅行や観光される皆さん方にとってもプラスになっていくということで、これは地域に住む人々、それから来訪される方々の両方にとって、宿泊税の財源をもって様々な事業が行われていることに関しては、望ましい方向に向かうのではないかと思います。他の自治体での先行事例をよく検証しながら、また議論もなされていくものだと考えております。
税額についても、例えば福岡市では宿泊費が2万円未満の方は200円、2万円以上の方は500円であり、東京都では1万5千円以上が200円で、北九州市では宿泊者1人1泊あたり200円、長崎市では1万円未満が100円、1万円以上2万円未満が200円、2万円以上が500円と、各自治体によって税額に差があります。
熊本市のほかにも北海道や宮城県、それから広島県、沖縄県、札幌市、仙台市等も宿泊税の導入を検討しているところでありまして、検討委員会を設置し導入を検討する中で、このような他の自治体の状況も踏まえる必要があると考えています。
【記者】いじめ不登校対策についてお伺いします。他の自治体にはない熊本市独自の取組になるということですが、市が目指したい姿を教えてください。
【市長】いじめ不登校対策というのは難しく、なかなかこれといって効果的な施策が示されないような部分はありますが、既にいろいろとICTを活用して、フレンドリーオンライン等の不登校対策の取組をさせていただいております。そこに今回メタバースというような新しい技術を活用して、ロボットを導入して実際に授業に参加する、擬似的な形になるかと思いますが、自分の分身として(授業などに)参加するという新しい取組を考えられています。詳しくは教育委員会に取材をしていただければと思います。配置校等もこれから考えていくことになるかと思いますが、不登校児童生徒の学びの選択肢を広げていくということは非常に重要であり、実際に私もフレンドリーオンラインなどの取組を見たり、報道等でたくさん取材をしていただいていますが、そういったものを見る限り、非常に効果的なところで、今まで学校やいろいろなところと全くアクセスできなかった不登校児童生徒たちが、実際に参画をし、オンラインから今度はリアルの登校に繋がるというような事例も幾つか見られるということでありますので、いろいろ模索をしながらということになりますが、新しい取組をいろいろと講じていくことが非常に重要ではないかと考えています。
ですので、これから教育委員会の現場でも、今までの取組をさらに拡充したり、パワーアップをしたりという取組が進んでいくと思いますので、市長部局としても、そういった体制や環境の整備にしっかりと支援していきたいと考えています。
【記者】宿泊税についてお伺いします。どのくらいの税収を見込んでいるのか教えていただきたいのと、先ほどの新たな財源によって環境を整えていくというお話がありましたが、具体的にどの部分を整えていく必要があるのか、市長のお考えをお聞かせください。
【市長】宿泊税の議論はこれからですので、どのくらいの財政規模かということについては、現在お答えできるような状況にありません。今後は、他の自治体で徴収されているような100円や200円など、(税額が)ある程度定まってくれば、そうしたものが一定程度確定できるかと思います。
それから宿泊税については、例えば観光施設のいろんな整備について、こういった観光に特化した税があることにより、特に多言語化に対応するために施設内のサインを変えたり等、皆さんいろんな取組をされていると思いますので、そういったものに対するサポートができるとか、財源がどのぐらいの規模になるかによって変わってくるとは思いますが、宿泊税をいただくことによって、観光しやすさや宿泊しやすさ、そして地域によってはオーバーツーリズムで、もう来ないでほしいとか迷惑だという話もいろいろと出ている中で、(観光客に)一定のご負担をいただくことで、それを財源にしながらいろんな地域の環境整備であるとか、例えばゴミがなくなるとか、市民の生活にも影響するようなことを最小限にするような取組で使えるのではないかと思っています。
宿泊税をどのように設定するか、また使途をどのように設定するかということも含めて、まずは導入の是非について検討委員会でご議論いただくと同時に、こういう使い方がいいんじゃないかと私から限定するということではなく、こういうものが今求められている、あるいはこういうことに使うとお互いに納得性のあるものになるのではないか、というような内容の議論も期待したいと思っています。一般的に申し上げると、そういった環境整備が必要であると言えるのかなと思います。
【記者】犯罪被害者支援の条例についてお伺いします。先ほど政令市の中でも遅れてスタートしたという話もありましたが、裁判やその後の生活に対するスピード感を持った支援というものが非常に重要だと思いますが、被害者支援に関して、現在市長が課題だと思われている点を教えてください。
【市長】被害に遭われたご家族が、精神的に追い込まれて非常に苦しんでいることに対してもっと積極的にサポートする必要があると思いますし、あとは加害者側の資力の問題等で、裁判が確定した後もしっかりとした賠償が行われずに、経済的に非常に大きなダメージを受けておられます。あと、これは記者会見の場で(報道各社に)話すことではないかもしれませんが、メディアの報道等に対して、犯罪被害者の方々が非常に苦しんでいるということも、いろいろとお話を聴く中でお聴きしました。メディア・スクラムの問題というのは、恐らく報道各社の皆様も配慮や検討をされていて、いろいろと悩ましい部分もあるかと思いますが、こうしたことも含めて、いかに犯罪被害者をしっかり守ることができるのかということについては、いろいろな課題があると思っています。
今後、市民の皆さんに理解を深めてもらうためには、やはり広報であるとか啓発であるとか(が必要であり)、10月の末に犯罪被害者のご遺族による講演会の実施をしたいと考えております。そういった新たな支援策ということについても、外部委員会等のご意見も伺いながら、令和6年度からの運用開始をできるように、いろいろと検討していきたいと考えています。条例としてこういったものが早く制定されるということが、非常に重要かと思っておりますので、議会においても、しっかりご審議いただきたいと思います。
【記者】(犯罪被害者のご家族と)幹部職員が直接会われてお話しされたとのことでしたが、こういった支援をして欲しいなど、具体的なお話はありましたか。
【市長】特にそういった周りの面も含めてですが、犯罪被害者の方が孤立をしてしまうということ、それから経済的に非常に苦しんでおられるということがお話を聴いてよく分かりましたので、そういった支援というのは、さらに必要ではないかなと考えています。
【記者】自治基本条例の改正案についてお伺いします。先日、熊日新聞で開示請求を行い、パブリックコメントに寄せられた意見を実際に拝見したのですが、例えば外国人について、行政の考慮外におくべきであるとか、市政に外国人を参画させるのは危険だとか、そういった差別や偏見に基づいた意見が散見されました。こういった意見に対しての、市長の所感をお聞かせください。
【市長】まず、この条例の素案を出したときに昨年末に非常に大きな反響があり、特にネットを中心にいろんなご意見が出ていて、私もかなり極端なご意見が出ているなと拝見して感じていたのですが、実際にパブリックコメントを実施したところ、外国人に対する理解であるとか、それから外国人参政権に対するいろんな不安感等はある程度理解はできるのですが、それが直ちに、この条例の改正によって何か通ってしまうというような誤解であるとか、反応が非常に様々だなと思いました。ただ私は、実際にこうした反対の意見等々や外国人に対する拒否感といいますか、差別的感情のようなものは、やはりこれは相互理解の欠如によるものが非常に大きいと思いました。
今回条例の提案をするにあたり、意見交換会をそれぞれの地域で、たくさんは行えなかったのですが、いくつか行ってきた中で、地域によっては、ご意見が出たのは、実際に会って交流する機会が非常に重要なんだということは、在住外国人の方もそれから地域にお住いの方もおっしゃられていました。それから、例えば防災に関するいろんな訓練があっていることを外国人の方はご存じなくて、それに参画できることも知らなかったということもあれば、一方で地域の皆さんからは、災害時にこそ国籍を問わない地域のコミュニティが熊本地震を経験した我々からすると非常に重要なことなんだというご意見もあって、コロナ禍があって、なかなか直接会って交流する機会が少ないがゆえに、余計にそういった分断や誤解が生じてしまい、相互理解がなかなか進まない面があるのではないかと思いました。
ですので、私自身(が思うのは)これは文言をどうこうということではなく、実質的にそういう交流を深めていくような機会をつくっていくこと、それから文化や生活習慣の違いによって不安や戸惑いが、日本人も在住外国人もお互いにありますが、その文化の違いを互いに理解すれば受け入れられるようになってきます。そういう意味では、どうしてそうなってるのかということが分からないままに分断が進むというのは非常に良くないので、私としては、これからもっとこういう地域での外国人の皆さん方の交流や、既に8月の初めぐらいからTSMCの従業員の方々が台湾から来られていますが、そこで台湾と日本の文化や習慣の違いといった相互理解を一つ一つ丁寧に進めていくことで、いろいろな対立や誤解、偏見を生むということは解消されていくのだろうと思います。
ですので、どうしても知らないとか分からないことに対する不安感というのは、反対意見をおっしゃる方の意見も理解出来ないわけではないと思っています。それぞれのご意見に対して皆さん方が、実際のところはどうなんだということを交流によってお互いが理解をしていく。特に、人間同士ですから、いろんな生活環境や文化や歴史の違いによって、大きなトラブルや諍いが起きるわけではないと私は思いますので、特にそういう交流の機会やお互いにいろんな情報を知っていくような場を、しっかりと作っていきたいと思います。
【記者】7月の記者会見の際に、パブリックコメントの中にはそういう激しい意見も見られ、文言を明記することによって分断が生じてしまうのは本末転倒だとおっしゃっていましたが、分断を懸念されるというのは、やはりそういう激しい極端な意見、差別偏見的な意見ということを、念頭に置かれていたのでしょうか。
【市長】それはあると思います。どんな方でも意見はいろいろ持っていて、考え方を持っているのはいいと私は思いますが、それが他人を傷つけてしまったり、ネットの誹謗中傷なんかもそうですが、そういったことによって、実質的に皆さんの人権が侵害されていくようなことがあってはならないと思っています。
例えば、今、福島県の処理水の問題で、中国から色々な意見というか嫌がらせのようなということで、中国方面だろうと言われてる電話番号からの着信が、福島やいろんな地域であっていると伺っていますが、こういったことも正確な情報をきちんと理解をしてもらうこと(が必要であり)それはお互いに理解を進めていかなければなりませんが、説明する方もきちんと説明し、あるいはどういうところに不安があるのかということについて、きちんとした説明がなければ解消されないと思いますので、それは、国が科学的な知見やいろんな検査等々も行いながら、情報を公開していくことによって、安全性の確保それから安心を確認できるということです。
このようにきちんと情報を知ること、それからお互い目と目を合わせてこういう意見を言うことによって、例えば匿名の嫌がらせ電話のようなものは、匿名で誰だか分からないから過激になってくるという面があると思います。今、エックス(旧:ツイッター)の中でもこういったことがあるとか、特定のいろんな掲示板のコメントが荒れるなどいろんなことがありますが、やはり実際に面と向かってそんなことはなかなか言えませんよね。ですので、こういった直接面と向かって会うような場面は非常に重要だと思いますので、そういう極端な意見が出る背景や、環境というものも少し考えながら、何かアプローチを考えていかなければならないと思います。
【記者】差別的な意見内容について、ヘイトスピーチ解消法では、自治体の責務として解消に努め取り組むと記されていると思います。今回明記を見送ったのは、総合的に判断された結果だとは思うのですが、あえて条文に明記することで差別的な発言の解消に努めたり、あるいは多文化共生を熊本市として積極的に推進していくことを対外的に発信する良い機会であったかと考えますが、この点について市長はどう思われていますか。
【市長】議論が起こるということが、私は重要なきっかけだと思っています。ですので、今回は明記しないという判断であり、それは定義を変えることではないということでしっかり理解が進められるということでもあると思います。
むしろ、先ほどから申し上げていますように、直接的にアプローチをしながら、誤解や偏見を解いていくことを、しっかり我々がやっていくことが、これから求められてくると思います。ここで終わりではなく、今からがスタートですので、逆に言えばどうしてこうなったのかということも含めて、皆さんと冷静にいろいろな話ができるようにするような場をつくっていくことも、我々行政の責務でもあろうかと思っています。
それと、誤解に基づく偏見や割と激しい個々の発言等々についても、こういうことなんだとしっかり説明をしていくことは重要なことだと思いますので、そういった取組をこれからさらに継続していくことが必要だと考えています。
【記者】9月4日に開会する9月定例会で、今回の改正案を提出されるかと思いますが、議会で条例改正案については、外国人も市民だと明記しない形になりましたが、市長は改正案について、今後どのような議論を期待されていますか。
【市長】特に3月の議会においては、委員会等でもご意見をいただいておりますので、それを継続すると同時に、新しい議員の方々が加わり構成メンバーも変わりましたので、そういった皆さん方からの活発なご意見がいただけるものと考えております。
そういう意味では、先ほど申し上げましたように、実質的にどんな交流をしていくのか、どういう理解促進をしていくのか、あるいはそういうヘイトや差別的な事を助長するようなことをいかに排除し正しい理解を進めるのか、こういった点について、議会でご意見、ご議論をいただきたいと考えています。
以上