講演要旨
Society 5.0とは
Society 5.0とは狩猟社会(Society1.0)、農耕社会 (Society2.0)、工業社会(Society3.0)、情報社会 (Society4.0)に続く新たな社会を指す言葉で、国の「第 5 期科学技術基本計画(平成 28 年策定)で初めて登場しました。内閣府の定義によれば、現実空間(フィジカル空間)と仮想空間(サイバー空間)を融合した新しい社会がSociety 5.0です。スマート社会という言葉もSociety 5.0と同義語と考えて良いでしょう。様々なモノやサービス、それらがインターネットやネットワークで繋がって人々の生活が便利になるというのが、スマート社会の一般的な考え方です。Society 5.0の実現に必要なものとして、3点が挙げられます。1点目はフィジカル空間とサイバー空間の融合による持続可能で強靭な社会への変革、2点目は新たな社会を設計し価値創造の源泉となる知の創造を行っていくこと、3点目は新たな社会を支える人材の育成です。Society 5.0が提唱している仮想空間とメタバースとが混同されることもありますが、メタバースはインターネット上に構成される仮想空間のことです。一方でSociety 5.0が提唱している仮想世界は、私たちの身のまわりの生活の中で出てきた大量のデータの蓄積により形成される仮想空間のことです。例えばスマートフォンや各種センサー、IoTデバイス等から大量のデータを収集分析することで、社会に有用な意思決定を行うことができます。
Society 5.0と社会
Society 5.0によって、私たちの身のまわりの社会は、どのように変化するのでしょうか。1点目は、私たちの生活です。例えばスマホを利用した自動翻訳は既に実用化され、海外の方とコミュニケーションを取ったり、自分が興味のあることを調べたりといったことが簡単にできるようになりました。また実現は少し先の未来かも知れませんが自動車の自動運転なども、これから私たちの生活に入り込んでくるものと思います。2点目は、行政です。例えば北海道の場合は土地が広いため地域間の距離がかなり離れており、交通問題は喫緊の課題です。そこでMaaS(Mobility as a Service)、すなわち電車、バス、タクシー、飛行機、船舶、フェリー、シェアサイクルなどの交通手段を1つのサービスに統合して利便性を高めるとともに、観光客の受け入れの強化も目指した総合的な取組を行っています。3点目は、ビジネスです。この分野が最も、Society 5.0、AI、ビッグデータの活用が進んでおり、私たちもその恩恵を受けています。例えばAIチャットによる顧客対応も最近増えました。皆さんもネットショッピングのサイトで「お困り事はありませんか」「何か質問はありますか」というAiのアバターやキャラクターを見たことがあると思います。4点目は、デジタルトランスフォーメーション(DX)です。今まで紙でやっていた仕事をパソコンでやるのはただのデジタル化ですが、DXとはAI、ビッグデータ、IoTといったものを活用していくことを指します。
Society 5.0時代に求められる能力と教育の変革
経団連の「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」では、Society 5.0 時代の人材には、最終的な専門分野が文系・理系であることを問わず、リテラシー(数理的推論・データ分析力、論理的文章表現力、外国語コミュニケーション力など)と、論理的思考力と規範的判断力、課題発見・解決力、未来社会の構想・設計力、高度専門職に必要な知識・能力が求められると述べています。このような人材を育成するためには、教育の方法も従来型の教示主義(先生が知識を与える学習)から構築主義(課題や疑問を自ら発見し、学び、探求する学習)へ、また演繹的学習(少しずつ積み重ねるボトムアップ型の学習)から帰納的学習(課題解決のために必要な知識を得るトップダウン型の学習)へと転換していく必要があると考えられています。つまり学習者が自分で考え、学んでいかないと、Society 5.0の社会では太刀打ちできないというのが、大きな流れになっています。そこでプログラミング教育、STEAM教育、データサイエンス教育等が重要視されるようになり、2020年の学習指導要領改訂により、小学校でもプログラミング教育が導入されています。プログラミング教育は少し誤解されておりますが、プログラミングをやるための教育ではなく、プログラミング的思考を活用した学びのことです。プログラミング的思考とは、逐次処理(物事を順番に処理する)、分岐処理(何か判断をしてAもしくはBの処理をする)、反復処理(繰り返し処理する)のプログラミング3大要素で、これを念頭に置いて学ぶのがプログラミング教育です。またGIGAスクール構想ではICT機器を教育に活用しており、熊本市は全国でもトップランナーで、市と熊本大学、熊本県立大学、NTTドコモの4者で熊本市のICT教育を検討しています。さらにSTEAM教育とはScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)を意味し、これらを主軸に今後、教育の方向が変わる可能性があります。
最後に、データサイエンス人材の育成です。大学ではデータサイエンスを学び、統計学と機械学習とAIを使った内容を必修化して行く動きが、理系・文系関係なく、全国の大学で起こっており、熊本県立大学でも今年度から開講しています。今後はこうした分野でも「創造性」というのが大事になってきますが、基礎学力と創造性とは相反するところがありますので、そのバランスをどう取っていくのかが、今後の課題になってくるものと思います。
※講演会要旨の文責は都市政策研究所にあります。
※内容の詳細は講演録をご覧ください。