劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)とは?
劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)とは?
劇症型溶血性レンサ球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome: STSS)は、突発的に発症し、敗血症などの重篤な症状を引き起こし急速に多臓器不全が進行することがある重症感染症です。
病原菌には、A群、B群、C群、G群の溶血性レンサ球菌などがあります。溶血性レンサ球菌(いわゆる溶連菌)には、多くの種類があり、一般的には急性咽頭炎(のどの風邪)などを引き起こす細菌として知られていますが、稀に引き起こされることがある重篤な病状として、劇症型溶血性レンサ球菌感染症が知られています。その死亡率は約30%とされていますが、重症化するメカニズムはまだ解明されていません。
主な症状
最初は、腕や足の痛みや腫れ、発熱、血圧の低下などから始まることが多く、その後、組織が壊死(えし)したり、呼吸状態の悪化・肝不全・腎不全などの多臓器不全を来たし、場合によっては数時間で、非常に急速に全身状態が悪化します。
治療方法
ペニシリン系抗菌薬と呼ばれる抗菌薬が第一選択肢であり、使用される抗菌薬自体は一般的に使用されるものです。しかし、抗菌薬による治療のみでは改善が困難な場合が多く、緊急手術による広範囲の壊死(えし)した病巣(びょうそう)の除去や集中治療室での全身状態の管理を要する場合があります。
予防方法
現在のところ、劇症型溶血性レンサ球菌感染症、その原因である溶血性レンサ球菌に有効な薬事承認されたワクチンはありません。劇症型溶血性レンサ球菌感染症に限らず、多くの感染症の予防には、手指衛生や咳エチケット、傷口の清潔な処置といった、基本的な感染防止対策が有効です。また、発熱や咳や全身倦怠感などで食事が取れないなどの体調が悪いときは、かかりつけの医療機関などを受診しましょう。
発生状況
発生状況
2024年第1~24週(2024年1月1日~6月16日)までに診断され、感染症発生動向調査に届け出された劇症型溶血性レンサ球菌感染症の症例は1,060例であり、1999年に感染症発生動向調査を開始して以降、最も多い届出数となりました。Lancefieldの血清群の内訳はA群が656例、B群が114例、C群が10例、G群が222例、その他/不明58例であり、A群による届出が最も多い状況です。また、過去6年間における、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の届出数全体に占めるA群による届出数の割合は約30%から50%程度でしたが、2024年は62%と割合が上昇しました。
このようにA群による届出は、2023年11月以降、増加傾向を認め、2024年1月にピークとなりました。その後、2月に減少して以降、5月まで横ばいで推移していますが、例年と比較し依然として多い状況にあり、今後の動向には引き続き注意が必要です。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の患者数が増加している理由は必ずしも明らかではありませんが、2023年の夏以降、A群溶血性レンサ球菌による急性咽頭炎の患者数が増加していることが要因の一つである可能性があると考えられています。
令和元年(2019年)から令和6年(2024年)7月7日までの期間において、年間の発生件数は、令和4年(2022年)の年間8件が最多となっています。令和6年(2024年)については、1月1日から7月7日までの途中集計となっておりますが、この時点の発生件数は7件となっており、全国的な患者数の増加と同様に、熊本市においても増加傾向が見られます。
熊本市においては、2024年第21週(2024年5月20日~5月26日)の定点医療機関あたりのA群溶血性レンサ球菌咽頭炎の患者報告数が「8.63」となり、国が警報レベルの基準としている「8」を超えました。A群溶血性レンサ球菌咽頭炎の患者数が増加していることが、劇症型溶血性レンサ球菌感染症の患者数の増加に繋がっているかは因果関係が明らかになっておりませんが、2024年7月7日時点においても、A群溶血性レンサ球菌の警報レベルが継続しているため、引き続き注意が必要です。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症の発生件数(年別)
| 令和元年(2019年) | 令和2年(2020年) | 令和3年(2021年) | 令和4年(2022年) | 令和5年(2023年) | 令和6年(2024年)※ |
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全国 | 894 件 | 718 件 | 622 件 | 708 件 | 949 件 | 1185 件 |
熊本県 | 5 件 | 9 件 | 8 件 | 8 件 | 3 件 | 9 件 |
熊本市 | 4 件 | 7 件 | 6 件 | 8 件 | 3 件 | 7 件 |
※令和6年(2024年)は、第1~27週(2024年1月1日~7月7日)までの集計
医療機関の皆さまへ
医療機関の皆さまへ
劇症型溶血性レンサ球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome: STSS)は、通常無菌の部位(血液、胸膜、脳脊髄液など)に溶血性レンサ球菌(A群、B群、G群等)の毒素産生株が感染することで発症し、発熱、全身性紅斑、低血圧、急速に進行する腎不全を含む多臓器の障害など特徴的な症候を呈する稀な感染症です。急速に増悪する痛みを伴う局所軟部組織感染症(蜂窩織炎、壊死性筋膜炎など)が多いですが、はっきりした感染巣が不明な場合もあります。致死率は 30-40%と高いにも関わらず、はっきりした感染巣が不明な場合が多いことに加えて、数時間単位で症状が進行することがあるため、本疾患の可能性を鑑別診断に挙げること、迅速な初期評価、診断と適切な治療、管理が極めて重要になります。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症は、その発生が稀であることから、医療従事者向け情報として、国立国際医療研究センターにおいて「劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)の診療指針」が公開されておりますので、以下のホームページよりご確認ください。
劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)は、感染症法に基づく感染症発生動向調査において、5類全数把握疾患と定められています。
届出に必要な要件は、ショック症状に加えて肝不全、腎不全、急性呼吸窮迫症候群、播種性血管内凝固症候群、軟部組織炎、全身性紅斑性発疹、中枢神経症状のうち2つ以上をともない、かつ通常無菌的な部位(血液など)等からβ溶血を示すレンサ球菌が検出されることであり、症状や所見からSTSSが疑われ、かつ、要件を満たすと診断された場合、届出対象となります。詳細は、厚生労働省のホームページでご確認ください。
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