【演題】人口減少・少子化の構造とこれからの政策 ~今、何を考えなければいけないのか?~
【講師】国立社会保障・人口問題研究所 人口構造研究部
第2室長 藤井 多希子 氏
講演要旨
戦後の人口・社会構造の変化
国立社会保障・人口問題研究所が推計した2070 年の日本の人口は8,700 万人であり、高齢化率(65 歳以上の人口比率)は40%弱までの上昇を見込んでいます。また高齢者人口は、2043年に3,953 万人でピークを打つと見越しています。合計特殊出生率をみると、団塊ジュニア世代(1970 年~ 1975 年生まれ)までは人口置換水準(2.07)を上回り、人口は維持されていました。しかし1975 年以降は、出生率が下がっています。
人口ピラミッドをみると、団塊ジュニア世代の子世代(1990年代後半生まれ)では団塊ジュニア世代の未婚率が高く、出産も先送りにしてきたこともあり、あまり大きな山は出ていません。これが日本全体の動きです。
ここで出生率の下がった1970 年代を振り返ると、この時代は結婚することが当たり前で、恋愛・結婚・出産が強力に結び付いた三位一体の時代だったと思います。夫婦間の役割は、夫が外で働いてお金を稼ぎ、妻が子育てや介護に専念することが効率的な時代と考えられ、家庭内の役割が分業化していきました。また仕事も技術進歩に伴い専門化・分業化していきました。仕事も家庭も「縦割り社会」になっていきました。
1990 年代になると行き過ぎた縦割りによって、サービスや制度の対象外の人が生まれました。また最近では課題が複雑化し、1 つのサービスでは解決できなくなってきました。さらにひとり暮らしや多様な形の家族が増え、家族(特に女性だけ)に、子育てや介護などの問題解決を押しつけることは、不可能になってきました。このような背景から、結婚したいと思う人の割合も減っていると思います。また未婚者が考える結婚の条件等をみると、男女の違いが無くなってきており、協働型の家族に転換しつつあると思います。また恋愛・結婚・出産という三位一体体制が崩れつつあると思います。
家族のかたちとしては、単独世帯が増えていき、近親者がいない高齢者が激増すると考えられます。そのため手術や入院・検査、介護サービス等の契約などが問題になりえます。家族の存在を前提としない仕組みづくりが必要になります。
熊本市の未来
熊本市の人口は2050 年に64 万8,000 人になると推計しています。また人口ピラミッドをみると、団塊の世代や団塊ジュニア世代が大きく出ていて、団塊孫世代も出生率がやや高く、それなりに太いです。人口ピラミッドを全国と比較すると、2050 年までは、やや太い形で推移するとみられます。
自然増減・社会増減をみると、2020 年から2050 年までに自然減が14.2%、社会増が1.9% と全体で12.3%減少すると推計されます。中央区、西区、南区では社会増が見込まれますが、ここ30 年は高齢者の死亡による自然減が大きく、人口は減少します。
2025 年問題、2040 年問題
2025 年問題とは、1947~1949 年生まれの団塊の世代が一斉に75 歳以上となることで、医療・介護・福祉ニーズが高まり、これらのサービス等が不足するという問題です。この対策として「地域包括ケア」や「地域共生社会」の構築が進められてきました。
2040 年問題とは、団塊の世代が90 歳代前半、団塊ジュニア世代が60 歳代後半になって起こる問題です。現役世代が急減して担い手不足になります。年金制度の破綻や医療・介護サービスの不足といった問題も懸念されます。看取り数が急激に増え、ターミナルケアの需要が激増し、対応する医師や看護師も必要となります。認知症等の場合、本人の意思をどこまで優先するべきか問題になります。一方で虐待や相続等、家族の存在による問題もあると思います。家族の存在を前提とした仕組みづくりも必要です。
さらに働く高齢者が増えることで、職場の見守り機能が重要になります。家族がいない高齢者も増えるため、家族がいないことを前提にした制度設計が必要です。貧困世帯数、生活扶助費、万引き等も増加すると思います。その他、AI などで人材不足が補える分野もありますが、伴走型の支援が一層必要になり、コミュニケーション能力を持つ人材の育成が課題になります。人口減少の著しい自治体が出てきて、令和の大合併もあり得るのではないかと思います。
今、考えなければいけないこと
これまで言及したこと以外にも、副業が増加し、自営業やフリーランスの支援、育休や産休の支援が必要です。高齢者の一定割合が認知症になることを踏まえ、できないことを非難しない、寛容な社会になれるとよいと思います。またこれまでの「常識」を見直すことが必要であり、特に男女の役割分担の意識を解消しないと出生率は上がらないと思います。
政策のキーワードとして、「隙間」と「連携」があり、制度の隙間を解消するための連携を考えるなどの必要があります。また政策立案における視点では、「活動人口」を視野に入れること、人口・出生率を増やす際には、実数と割合・率を同時に考える必要があると思います。さらに地域の状況の差異が大きくなるため、地域独自の取組が重要になると思います。
最後に皆がやりたいことをやり、全体としてみると「地域共生社会」になるのが理想であり、そのようなプラットフォームをつくっていただきたいと思います。「できることから 始めよう!」というキャッチコピーで、作り込み過ぎずに、柔軟にみんなで対応できればいいのではないかと思います。
※講演会要旨の文責は都市政策研究所にあります。
※内容の詳細は講演録をご覧ください。
【アンケート結果】
当日参加者の皆さまにご協力いただいたアンケートの結果を掲載します。
(自由記述の回答などの一部は除いています。)
講演会の様子