令和6年度末からの実施設計(本格着手)を目指しておりました市電延伸事業(以下、延伸事業という。)につきましては、昨年より続発した市電の運行トラブルを受け、着手時期を延期することとなりました。
市民の皆様、特に、地域の皆様におかれましては、延伸事業のスケジュール変更により、多大なるご心配とご迷惑をおかけしており、心よりお詫び申し上げます。
当面は、市電を安全・安心な乗り物として市民の皆様にご利用いただけることを最優先事項とし、全力で安全確保に取り組んでまいります。
現時点で、延伸事業の再開時期は未定でござますが、今後の方針が固まり次第、改めてご報告させていただきます。
引き続き、市民の皆様のご理解、ご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。
1.公共交通の現状と課題
- 熊本市では慢性的な交通渋滞が発生しており、市内中心部の平均速度や主要渋滞箇所数は、3大都市圏にある東京都区部、大阪市、名古屋市をを除いた政令指定都市の中でワースト1位となっており、高速道路のインターチェンジから市中心部までの所要時間も福岡市の約4倍かかる状況です。
- 近年、全国各地で路線バスや鉄道の廃止・減便等が相次いでおり、本市の公共交通においても、人口減少や自動車の普及等により、公共交通利用者数の減少が続いていることに加え、新型コロナウイルス感染症の影響によるライフスタイルの変化もあり、公共交通を取り巻く環境が年々厳しくなっています。
- バス利用者数の減少は特に著しく、鉄軌道の利用者数が概ね横ばいで推移する一方で、昭和50年に約1億人あった利用者数は、5分の1程度まで減少している状況です。
- 過度に自動車利用に依存してきた交通体系を地域ごとの交通特性に応じて見直し、再構築を図るため、骨格となる幹線道路等の整備と合わせて、自動車から公共交通への転換を図り、将来にわたり持続可能で利便性の高い公共交通ネットワークを構築することが課題となっております。
2.目指す公共交通の将来像
2-1.都市の将来像
本市では、目指す都市の将来像として「公共交通を基軸とした多核連携都市くまもと」を掲げております。
多核連携都市とは、都市の骨格を形成する中心市街地及び地域拠点に、市民が日常生活を営む上で欠かせない都市機能等を維持・確保し、これらを利便性の高い公共交通で結んだ都市構造であり、郊外部を含めた地域生活圏全体の暮らしやすさを確保していくというものです。
多核連携都市を実現するためには、利便性が高く、持続可能な公共交通が非常に重要なものとなります。
2-2.公共交通の将来像
本市では、公共交通の利用者数が減少し、それが事業者の収益悪化やサービス水準の低下を招く負のスパイラルに陥っています。
今後、人口減少・超高齢社会の進展が見込まれている中、このまま負のスパイラルが進んだ場合、公共交通が破綻し、高齢者などをはじめとする多くの方々の移動が困難な状況に陥ってしまうことが危惧されます。
このような状況に陥らないよう正のスパイラルに戻す取組を進めるため、熊本地域公共交通計画において「誰もが安心して移動できる持続可能な公共交通」という将来像を掲げ、公共交通の利用者増や交通事業者の経営効率化等に向け、行政と事業者が連携して取組を進めています。
3.これまでの検討経緯
市電延伸に関して、過去の検討経緯は下記のとおりです(令和6年度時点)。平成27年度から市電延伸ルートの検討を始め、現整備ルートが決定しております。
年度 | 検討内容 | 備考 |
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平成27年度 | 市電延伸を検討する方面、ルートの検討 相対的に優位な2ルートを選定 | 方 面:東部方面、田崎方面、南熊本駅方面 ルート:産業道路、自衛隊、沼山津、田崎、南熊本駅 |
平成28年度 | 優先整備ルートの決定 | 自衛隊ルートを優先整備ルートに決定 |
平成29 ~ 30年度 | 市民アンケート、オープンハウス | |
令和元年度 | 自衛隊ルートの基本設計を実施 | |
令和2 ~ 4年度 | 新型コロナウィルス感染症の拡大を受け、一時中断 | |
令和5年度~ | 自衛隊ルートの修正基本設計を実施 | |
4.市電延伸の事業概要
本市の東部方面に位置する既存の「健軍町電停」から市民病院付近までの延伸を計画しており、各種検討や関係機関協議を進めています。市電延伸により、1日あたり約2,300人の利用者増を見込んでおり、自家用車から公共交通への転換が図られることから、周辺の渋滞緩和にも一定の効果があるものと考えております。
また、総事業費については、国費を活用することで市の実質的な負担額は約55億円を想定しております。

健軍町電停付近(イメージ図)

市民病院付近(イメージ図)
5.市電延伸の整備効果
市電延伸は、本市の公共交通の骨格となる基幹公共交通の強化に質する取組の一つとして、定時性・速達性・大量輸送力に優れた市電の延伸を行うものです。
本市の東部方面への延伸を計画しており、区役所等の公共施設や商業施設、医療機関、学校等へのアクセス性の向上や渋滞緩和効果など、高い整備効果が見込まれる事業です。
■ 移動時間の短縮
朝ピーク時間帯に市民病院から熊本市役所までの移動時間を比較した場合
自動車では、約55分
市電では、約34分
となり、約21分程度の時間短縮効果が得られる。
■ 道路の混雑緩和(交通事故減少)
今まで自動車で移動していた人も、市電で移動する機会が増えるため、自動車が1日約2,000台減少する見込みです。
例えば、軽乗用車を2,000台並べると、約2,000台 × 全長3m = 6,000m
道路空間に余裕が生まれることになります。
また、自動車が減ることで結果的に事故減少効果も期待できます。
■ 環境負荷の低減
自動車利用が減少することで、CO2削減が図られます。
CO2削減量=約425トン (1年間あたり)
*杉の木1ha(ヘクタール)が1年間に吸収する二酸化炭素の量が約8.8トンであり、上記削減量は杉の木 約 48 haの面積に相当します。
*杉の木 約 48 ha は、アクアドーム約29個分の森林面積になります。
6.過去のアンケート調査結果について
市民の皆さまのご意見を反映させるため、各区及び益城町において、地域の公共交通及び市電延伸に関するアンケート調査を令和5年(2023年)に実施しました。アンケート結果は下記のとおりです。

7.市電延伸を契機としたまちづくり
市電延伸ルート沿線には、都市機能(商業、医療、学校、公共施設)、共同住宅(公営)が多数立地しており、市電延伸を契機に官民連携により、様々な施策を展開し、当該地区の活性化を図れるよう検討して参ります。
8.よくある質問 Q&A
Q1:延伸することで、利用者が何人ぐらい増えるの?
人の移動の動向に関する調査であるパーソントリップ調査を基として、市電が延伸した場合の人の行動変容について推計を行った結果、2035年(R17)で1日あたり2,300人の利用者の増加を見込んでおります。
例えば熊本駅周辺から市民病院に行く際に車やバス等を使用していた人が、市民病院まで市電が延伸することで利用するようになるといった、延伸区間以外の場所から延伸区間周辺への移動についても効果や影響があると見込んでおります。
Q2:電停は増えるの?
延伸区間において新たに4箇所新設されます。また、健軍町電停は上下線ともに改良を予定しております。
Q3:延伸することで、道路が狭くなり、渋滞がひどくなるのでは?
現在の計画では、既存の車線数を確保することとなっており、また、市電整備により2,000台/日の自家用車の縮減を見込んでいることから、渋滞は悪化しないものと考えております。
Q4:なぜ、一部単線区間を設けるの?
熊本高森線の一部区間(約0.4km)に限定した単線化により、市電延伸後の利用者増見込に必要な輸送力を確保しつつ、複線案に比べ、地域への影響や事業費を低減させ事業期間を短縮できるため、一部単線区間を設けております。
Q5:自衛隊中通りの樹木は伐採するの?
自衛隊中通りに植栽されているクスノキについては、危険な樹木を除き可能な限り残すよう実施設計の中で検討するとともに、支障する場合には、他の場所への移植にあわせて補植等による緑の空間の再整備等について検討を進めて参ります。
Q6:今後、延伸を契機としたまちづくりをどのように進めるの?
市電の延伸は大型の公共事業であり、地域に与える影響が非常に大きいものになります。単に、市電を延伸するのではなく、これを契機として、当該地区のまちづくりに活かしていきたいと考えており、交通面で言えば、パーク&ライドやサイクル&ライドの実施、シェアサイクルの拡充などが想定され、実際に利用される地域の方々と一緒に検討していきたいと考えております。
交通面以外でも、商店街の活性化や地域のコミュニティ強化なども重要だと考え、地域の方々のご意見を聞きながら、関係部局と連携を図り、地域と一緒になってまちづくりを進めてまいります。
Q7:庁舎でも大規模な予算が必要になる中、市の財政上、問題ないの?
令和6年3月の熊本市財政の中期見通しでは、将来負担比率、実質公債費比率などの財政指標において早期健全化基準を下回り、問題ないものと考えております。市電延伸事業においては、引続き事業費を精査するとともに、国の補助金等の有効な財源の活用を検討して参ります。