建築物を建築する場合の法的規制としては、都市計画法や建築基準法等の公法上の規制と、民法による私法上の規制とに分けることができます。
公法上の規制を守っているからといって、私法上も問題ないとは限りません。
私法上の規制には、民法第234条(隣地との離隔)、同第235条(目隠し)、同第709条(不法行為責任)など相隣関係について利害調整を目的とした規定がありますが、こうした民法上の規定は建築確認申請における審査事項ではないからです。
したがって、これらの問題は当事者間の話し合いによって解決していただくことが基本となります。
●熊本市の相談窓口
・法律相談
弁護士が民事に関する法律上の様々な問題に関する相談を受けています。
※相談は予約制で、費用は無料です。
予約 : 相談日の2週間前の月曜日(祝日の場合は翌日)から予約を受付けます。
予約専用電話は 096-234-7499(平日 午前8時半~午後5時)
相談日: 月曜日、水曜日、金曜日 午後1時~午後4時まで
(予約時に相談時間をお知らせします。)
対象 : 熊本市内にお住まいの方で個人の民事に関する相談に限ります。
また、すでに弁護士に相談しているものはご遠慮ください。
(同一内容の再相談や継続相談は受けられません。)
●建築物の建築と境界線
1.建物を建てるには、境界線から50センチメートル以上離さなければなりません。(民法第234条第1項)
この規定による間隔は、相隣者の間で協議し合意すれば、狭くすることもできます。
2.前の規定に反して建物を建てようとする者がいるときは、隣の土地の所有者は、その建築を止めさせ、または変更させることができます。(民法第234条第2項本文)
申し入れを無視して建築が進むようであれば、建築工事の”差止め”を求め裁判所に申請することができます。
3.ただし、建築に着手してから1年以上たったとき、またはその建築が完成してしまった後では、中止・変更の請求はできず、損害賠償の請求しかできません。(民法第234条第2項ただし書)
4.前の規定と異なった慣習があるときは、その慣習に従います。(民法第236条)
●建物の窓、縁側と境界線
1.境界線から1メートル未満のところに、他人の宅地を眺めることができる窓や縁側を作ろうとする者は、目隠しをつけなければなりません。(民法第235条第1項)
2.前の規定の距離は、窓または縁側の最も隣地に近い点から直角に測って境界線に達するまでを計算します。(民法第235条第2項)
3.前の規定と異なった慣習があるときは、その慣習に従います。(民法第236条)
●境界標の設置
境界は、連続している土地を区分するもので、図面上はもとより、現地でも明らかにする必要があります。現地では、境界を示す目印を設けてあるのが通常であり、境界標とも呼ばれています。
境界標は、双方の土地の範囲を明確にするためのものであり、かんたんに移動できないものが望ましく、境界を明示できるものでなくてはなりません。
1.土地の所有者は、隣の土地の所有者と共同の費用で、境界標を設けることができます。(民法第223条)
境界標の設置及び維持の費用は、相隣者が、半分ずつ負担します。
2.ただし、測量のための費用は、それぞれの所有地の広さに応じて分担します。(民法第224条)
3.境界標を損壊・移動・除去したりなどして、境界を確認できないようにした者は、刑法により罰せられることがあります。(刑法第262条の2)
境界標がなくなると、後で境界紛争の元になりますから、工事前後にお互いが確認するようにしましょう。
●境界付近での隣地使用
土地の所有者は、隣の土地との境界またはその付近に、塀や建物を作ったり、修繕するために、必要な範囲で隣の土地の使用を請求することができます。ただし、隣の住家の中には隣人の承諾がない限り、立ち入ることはできません。(民法第209条第1項)
隣人が損害を受けたときは、補償金を請求することができます。(民法第209条第2項)
●通行権が認められる場合(袋地からの囲繞地(いにょうち)通行権)
ある土地が他人の土地に囲まれていて公路へ出ることができない(このような土地を袋地といいます。)ときは、この土地の所有者は公路へ出るために、その周囲の他人の土地(囲繞地といいます。)を通行することができます。(民法第210条第1項)
※公路とは、公道に限らず公衆が自由に通行できる私道も含みます。
東京高判昭和48年3月6日「相当程度の幅員をもっていて自由、安全、容易に通行できる通路を公路という」
●通行の方法・条件
1.囲繞地通行権による通行の場所と方法は、通行する権利をもつ者のために必要なもので、しかも周囲の他人の土地にとって損害が最も少ないものを選ばなければなりません。(民法第211条第1項)
2.その他にも、袋地と囲繞地の各土地の沿革、袋地を生ずるにいたった経緯、従前の通路および実際に行われてきた通行の状況、現在の通路および通行の実状、各土地の地形的、位置的な状況、相隣地利用者の利害損失など諸般の事情を考慮し、具体的な事情に応じて、最も適当な通行範囲を定めるべきものであると考えられます。
3.通行する権利をもつ者は、通行する土地に生じた損害に対して補償金を支払わなければなりません。ただし、通路の開設のために生じた損害に対する補償金は一度に支払わなければいけませんが、それ以外の補償金は、1年ごとに払うことができます。(民法第212条)
4.ひとつの土地を分割又はその一部を譲渡したために、公路に出ることができない土地ができてしまったときは、袋地になった土地の所有者は公路に出るために、分割された他の土地のみ通行できます。この場合には補償金を支払う必要はありません。(民法第213条第1項・第2項)