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農業・農村の多面的機能とは
もともと農業は、農産物を生産する目的で耕されるものです。また、その農産物を生産するために管理もされています。他にも様々な機能があり、水田の持つ機能として、熊本市にも代表される水田に貯められた水が地下へ浸透し地下水を形成する機能や、生物の生息の場を提供する機能もあります。これらをまとめて、農林水産省は、「農業・農村の多面的機能とは、『国土の保全、水源のかん養、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承等、農村で農業生産活動が行われることにより生ずる、食料その他の農産物の供給の機能以外の多面にわたる機能』」と定義しています。要約すると、水田には様々な機能があり、多面的機能とは、本来の目的である食料を生産する機能が含まれていないということです。
農業・農村の多面的機能の種類
農業・農村の多面的機能の種類について、国土保全機能、水源かん養機能、景観形成機能、生態系保全機能の順番で説明します。
1つ目に国土保全機能ですが、分かりやすい機能としては、洪水防止機能があります。水田は雨が降っても深く掘っているため、畔の高さまで水をためることができます。また、大雨になると、満杯となり溢れていきますが、満杯になるまでに時間稼ぎができます。ですから、急激に下流に雨が流れることを防ぐことができます。そのような面からも、洪水被害を少しでも軽減させることが期待されています。これに近い概念として、地滑り防止機能や土砂崩れ防止機能もあります。近年、田んぼダムという概念がでてきて、それに対する補助もあります。田んぼダムは、田に雨水をため、ゆっくりと排水する装置を畦畔に取付け、洪水被害の軽減を図るものです。これは排水のところに蓋を作り、水が出る穴を少し小さくしてゆっくり排水できるような取組をしています。ですから、大雨が降る恐れがあるときにこの装置をつけることになります。
2つ目に水源かん養機能です。水田は、米を生産する時期に水を張っていることがあり、用水路から水を引いてくる場合と雨水がたまる場合になります。もちろん、水田はコンクリートで覆われているわけではありませんので、水田を始めとする農地にためられた水は、徐々に地下に浸透し、地下水を形成します。水源かん養機能は、先ほどの国土保全機能の一部と見なされる場合もあります。
3つ目に景観形成機能です。農村の景観は、農家が農業を営むことによって保全されています。逆に言えば、農業が全く営まれなくなれば、その景観は損なわれます。景観形成というものを考える場合、景観悪化にならないよう耕作放棄地等に注意して農業を行っていく必要があります。
4つ目に生態系保全機能です。農村では水田を始めとする農地以外に、雑木林、用水路、ため池、川、他にも多様な環境があります。多様な環境があるがゆえに、その環境に適応した多くの生物が生息しています。生物が生息するには単調な環境だけではなく、複雑な、様々な環境から構成されていることが重要です。例えば鳥の場合、餌場や産卵場には様々な環境が必要です。水田や里山を中心に農村にはこのような生物の生息が十分に整えられる環境があります。その中でも、水田は特に生態系保全機能が高いと言われています。これは、人為的に湿地の環境をつくり出しているからです。つまり、水辺空間に適した生物が生きられるのです。例えば、アジア地域では水田が多いですが、他の地域に比べると、両生類といった水辺を好む生物が多く、種類も多いという傾向にあります。このような環境に適合して生物がどんどん増えます。こういった生物が生きられれば、餌となる生物が他の上位の食物連鎖の生物に食べられるといった生態系が形成されます。
農業・農村の多面的機能が発揮されるために
熊本市における農業・農村の多面的機能が維持される、さらに発揮されるために重要なことは、農業が継続的に行われること、そして、そのための支援が行われることです。地域住民にとっては、どのような多面的機能が発揮されているかを把握することが重要だと思います。
また、1 歩踏み込んで多面的機能をさらに発揮させる方法について検討することが求められると思います。例えば、環境保全型農業を実施することによる生態系保全機能の向上や、景観作物を導入することによる保健休養機能の向上などです。環境保全型農業を実施することで一部の多面的機能効果が高まり、食の安心にも繋がります。
安全というのは客観的なデータに基づいたものであり、安心というのは主観的なものです。そのため、慣行農業というのは農薬を使っていますが、国のガイドラインで、それ以上の使用は駄目と決めていますので安全なのです。しかし、安心はまた別ですので、先ほど説明した環境保全型農業も食の安心にも繋がると言えるのではないかと思います。